書籍紹介「硬くて柔らかい「複雑系」骨のふしぎ」石井優 著

「硬くて柔らかい「複雑系」骨のふしぎ」
石井優 著 ISBN978-4-06-539850-0

骨は、一見、体を支える支持組織で硬くて不動なものと思われています。しかしながら、最先端の技術で観察することで以下のような驚くほど「動的」な姿が見えます。

1.骨の基本構造(実体は鉄筋コンクリート様)
(1)外側の硬い皮質骨(緻密骨)は重力に抗して体幹部を変えるために強度が保たれています。
(2)一方、内側にある網目状の海綿骨は"隙間"があることで、外部からの衝撃を緩和する役割を果たしています。
(3)骨の基本構造は、主にしなやかな骨組み(柱)をつくる膠原線維(Ⅰ型コラーゲン)と、その周りに蓄積されるリン酸カルシウム結晶(ハイドロキシアパタイト)からできていますが、パイプ椅子のパイプのように中は空いています。

2.破骨細胞と骨芽細胞による動的平衡
(1)骨を壊して吸収する破骨細胞は、マクロファージが特殊に変化して生じます。
(2)まず、マクロファージが血中から骨の表面に近づき、骨をつくる骨芽細胞とそれが分化し骨成分に埋もれた骨細胞から放出されるRANKL分子を受け取ることで、破骨細胞に分化します。
(3)一方、骨芽細胞の分化や機能は、破骨細胞由来の因子によって制御され、両細胞は、直接接触したり分子のやり取りによる非接触により、密接に連携しています。
(4)骨芽細胞は基質小胞という小さな袋状の構造物を骨に向けて放出します。
(5)その小胞の中には、コンクリート成分のリン酸カルシウムや鉄筋のコラーゲン、さらには骨化に必要な酵素群が含まれています。
(6)骨粗鬆病は通常の破骨細胞の作用で発症しますが、関節リウマチはそれとは起源も機能も大きく異なる別物("悪玉"破骨細胞)で発症することも判明しています。

3.免疫組織としての骨・骨髄
(1)骨髄は骨の中の空間に充填され、海綿骨の部分では骨と骨髄腔(硬い骨に囲まれた空間)が混じっています。
(2)骨髄腔には、造血幹細胞、間葉系のストロマ細胞さらに、骨髄腔を貫く類洞血管のネットワークがあります。
(3)造血幹細胞が生み出される血液系細胞は、大きく分けて、体中に酸素を運ぶ「赤血球」、血管の傷口をふさぐ「血小板」、さらに体の内外からの撹乱因子から身を守る「白血球」があります。
(4)なお、骨髄は造血機能のための唯一の場所ではなく最初は、胎児に栄養を与える「卵黄のう」が造血の場となっています。
(5)その後、発生が進み臓器ができると、造血幹細胞は「胎児肝臓」に移動し、さらに骨格系が出来ると、「骨髄腔」に移動し、ここで終生定住します。
(6)ストロマ細胞は骨髄腔に網目状に張り巡らされ「ハンモック」のようになっていて、血液系細胞はそこで増殖したり、別のハンモックへ移動します。
(7)なお、「骨芽細胞」と「脂肪細胞」はストロマ細胞から分化します。
(8)類洞血管はその他の血管と異なり、血管の壁に大きな隙間があり、血液系細胞は比較的自由に出入りしています。

4.がんと骨
(1)骨の中に存在する「がん」は、別の組織で発生したがんか骨にやってきて居つく「骨転移」タイプと、白血病のように造血幹細胞やそこから生じる血液系細胞ががん化するタイプがあります。
(2)がん細胞の代表的な免疫逃避機構の一つは、がん細胞の「PD-L1」という分子が免疫細胞のT細胞上の「PD-1」受容体に結合して免疫応答を抑制するケース。
(3)さらに、がん細胞が物理的に免疫の働かない場所である骨(骨髄)に逃避するケース(免疫特権)。
(4)この免疫特権は、骨髄腔のストロマ細胞が免疫抑制性のサイトカインを放出したり、免疫反応を抑制する「制御性T細胞」を引き寄せることで形成されます。
(5)また、がん細胞は増殖スペースを作るために、元々いる造血幹細胞を追い出したり、破骨細胞を活性化する物質(PTHrP)を分泌します。

最新研究でわかった。骨の新常識!!!

2026年3月5日 9:04  カテゴリー:書籍紹介

書籍紹介「2030-2040年医療の真実」熊谷賴佳 著

「2030-2040年医療の真実」
熊谷賴佳 著 ISBN978-4-12-150844-7

高齢者医療を支えてきた中規模病院が、次々に破綻している。コロコロと変わる厚労省の政策に翻弄され、著者の病院も一時は破綻寸前まで追い込まれた。本書は医療の過酷な実態を明らかにし、この国の医療と介護をダメにした原因を指摘。あと5年で行き場のないお年寄りが街に溢れることになる。以下に示す5つの罪が絡み合って医療崩壊を加速させている。

1.民間企業の参入を阻む、かんじがらみの法律
(1)介護業界ではM&Aなどにより民間企業が参入し業界再編が進んでいる。
(2)一方、医療業界は医療法により、新たに株式会社による病院経営への参入とM&Aは阻止されている。
(3)さらに、医療法人の理事長は原則的に医師に限定されている。従って、経営ノウハウがない医師が理事長になっているケースが多い。

2.データも根拠もない医療政策
(1)医療データにもとづいた医療政策の推進が行われていない。
(2)新型コロナウイルス感染者を把握する保健所がファクスでやり取りし、IT化の遅れが話題になった。
(3)デジタル化が遅れているため、治療した結果や治療内容の良し悪しの判断ができない。

3.害のある投薬が野放しになっている
(1)今でも細菌性でない風邪に抗生物質が処方されている。特に60歳以上の医師の処方割合が非常に高い。
(2)無駄な治療薬や同じような薬が重複されても、それをチェックする監視システムがない(せいぜい薬剤師によるお薬手帳のチェック止まり)。

4.悪徳病院も優秀な病院も一緒くた
(1)2014年の診療報酬改定で新設された「地域包括ケア病棟」もデータに基づいて創設されていないので、急性期の病棟、回復期リハビリ病棟、療養病床の患者がどう違うのかよく判らない。
(2)大半の国民が、地域包括ケア病棟のある病院の存在そのものを知らない。
(3)電子カルテが導入されていても、規格が統一されていないので、各病院のやっていることが見えず、患者の状態を追跡できない。
(4)従って、悪徳病院も、患者の状態を改善して家や施設に戻している病院も一緒くたにされている。

5.開業医の診療報酬と出来高払い
(1)介護療養型病院を簡単に廃止し(2024年3月)、発言力の弱い集団は黙認し、発言力の強い開業医(日本医師会)に有利な診療報酬州は維持されている。
(2)外来診療は検査や薬を処方したらその金額を請求できる出来高払方式。
(3)従って、必要のない検査や投薬をしない良心的な医師より、それらを積極的にする医師のいる医療機関の収入が増える。

以上より、医療崩壊を防ぐ処方策は、前記の5つの崩壊要因を是正するとともに、急いで医療機関の集約化・チェーン化、遠隔ICUシステムや介護ロボットの活用を進めるべきである。

医療・介護業界は万年人手不足。一方で、必要とする人は確実に増える。
病院に入れない!施設も足りない!

2026年2月19日 9:05  カテゴリー:書籍紹介

書籍紹介「なぜヒトだけが幸せになれないのか」小林武彦 著

「なぜヒトだけが幸せになれないのか」
小林武彦 著 ISBN978-4-06-539089-4

本書では「生きていること」を生物が持つ「最大の価値」と捉え、その状態を「幸せ」=「死からの距離が保てている状態」と定義しています。この定義に当てはめて現状を考えると、ヒトの幸せを妨げている原因の一つは、私たちの細胞一つ一つに存在する「遺伝子」と言えます。

1.生物の生きるモチベーション
生存本能(生き残ろうとする意志)と生殖本能(子孫を残そうとする意志)が生きるモチベーションであり死からの距離を増大させる「幸せ」の原動力です。
(1)生存本能(個の「幸せ」)
誰からも教えれずに生きるための必須の行動で、進化の過程で獲得し「遺伝子」にプログラムとして刻まれています。
(2)生殖本能(種の「幸せ」)
個体にとっては、生きるのに必須ではありませんが、生殖本能がないと、種はそこで途絶えます。

2.なぜヒトは「幸せ」になれないのか?
(1)遺伝子と環境の不適合
私たちは、原始以前から作られた「遺伝子」のまま現代を生きています。従って、数千年の農耕牧畜を中心とした生活やもっと最近のテクノロジーによる近代化などは、遺伝子レベルでは全く変化をもたらしていません。最低でも数万年を要します。
(2)農耕の始まりによる定住化と格差の発生
「財産」という副産物により不安と孤独を生みだす格差が発生し今日まで続いています。そこで進化の過程で獲得したコミュニティを重視し、その中で生き残るように最適化された遺伝子との矛盾が発生しました。つまり、コミュニティが希薄(家族や個人重視)になり、全体に対する貢献などがあまり評価されなくなりました(利他的精神の空回り)。
(3)テクノロジーの爆発的・継続的発展
よりよい何かを作り出すところまでは遺伝子にプログラムされていますが、作り出したものの使い方までは遺伝子でフォローされていません。つまり、ヒトはテクノロジーの発展についていけなくなっています。

3.テクノロジーはヒトを「幸せ」にするのか?
幸福な未来の実現には二つの方法しかありません。一つは、自然回帰ですが、これは現実的には不可能です。もう一つは矛盾しているように聞こえますかテクノロジーの限定的活用です。
(1)危険度の高いテクロノジーの具体例
・戦争に使う殺戮兵器。これは死からの距離を直接的に最も縮めます。
・ゲノム編集など生命倫理に関わるテクロノジー。
・最も身近な最新テクノロジーのスマホ。スマホは近くの人との距離を遠ざけ、遠くのヒトとの距離を縮めさらに中毒になる可能性があります。
(2)AIの活用
高齢化が進む先進国では、日常生活においてもかなり有効な使い方ができます。特に、社会全体の死からの距離を広げる身体機能低下を助ける補助器具は期待されます。

幸せは「死からの距離感」で決まる!!!

2026年2月5日 9:09  カテゴリー:書籍紹介

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