書籍紹介「希望の分子生物学」黒田裕樹 著
「希望の分子生物学」
黒田裕樹 著 ISBN978-4-14-088709-7
分子生物学は単なる学問としての位置づけを超え、人間の生命や健康、さらには私たちの社会や未来に対する深い洞察を提供してくれます。
Ⅰ 驚異の21世紀生物学
1.iPS細胞をはじめとする幹細胞技術
幹細胞技術とは、特定の細胞の成長、分裂、分化を制御する技術で主に再生医療で使用されます。
(1)iPS細胞
一度分化した細胞も4つの転写因子である山中ファクターを作用させることによって、未文化な細胞に変換された多能性のある細胞
(2)UC-MSC(臍帯間葉系細胞)
臍帯(ヘソの緒)は出生すると必要なくなりますが、そこには幹細胞が多く含まれています。
2.遺伝子シーケンサー
細胞のDNAの塩基配列を読み取る機械。間もなく、10万円未満でヒトゲノムの読み取りが可能となります。
(1)サンガー法
数百塩基程度のDNAの塩基配列を読む場合に使用されます。
(2)次世代シーケンサー
一度に数百万~数十億のDNAシーケンスを読み取ることができます。
(3)第三世代シーケンサー
より長い遺伝遺伝子配列を直接、リアルタイムで読み取ることができます。
なお、シーケンスと遺伝子組換えをセットにして塩基配列を変えることで病気を治すことが可能となっています。
Ⅱ ヒトの住める地球環境を導く生物学
ヒトは生存のために立ちはだかる抜本的な問題を解決しようと努力しますが、その鍵は微生物が握っていると言えます。
1.人体に住む微生物(ヒトマイクロバイオーム)
腸内、口腔、皮膚などに100兆個以上の細菌が共生しています。
(1)プロバイオティクスとプレバイオティクス
適切な細菌を摂取したり、善玉菌の増殖を助ける食材を摂取する。
(2)フェカルマイクロバイオータ移植(FMT)
健康な人から取った腸内細菌(糞便)を病気の人の腸に移植する。
(3)脳腸相関
マイクロバイオームと脳の間には密接な関連性があるので、マイクロバイオームを変化させて精神疾患の症状を改善する。
2.植物とともにある微生物(植物マイクロバイオーム)
持続可能な農業のために、害虫駆除、病気の予防、光合成の補助、成長ホルモンの産出、窒素固定、栄養吸収力を高める目的のために細菌を利用する。さらに、遺伝子組換え細菌を共生して野菜を育てる。
3.燃料をつくる微生物
私たちが利用する石油や天然ガスなどの化石燃料はもともとは太古の昔に死んだ微生物や動植物などの有機物のかたまりです。しかし、今日、地球環境に与える問題がいくつも発生しています。そこで、代替燃料の主役として微生物が注目されています。
(1)バイオエタノール
酵母菌や特定の細菌を使い、デンプンや糖類からアルコール発酵によってエタノールを生産する。
(2)バイオディーゼル
藻類や特定の菌類が生成する脂質(トリグリセリド)を変換してバイオディーゼルを作る。
(3)バイオメタン
メタン生成菌などの細菌は、植物バイオマス(穀物の残りや木材など)を分解して都市ガスの主成分でもあるメタンを生成する。
(4)バイオプラスチック
いくつかの微生物はPHAと呼ばれる生分解性のプラスチックを生成する。
以上の他にⅢ遺伝子組換えの未来、Ⅳ創薬や治療法の未来についても詳しく解説されています。
分子生物学が導く驚きの未来像!!
2024年9月5日 9:05 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「食料危機という真っ赤な嘘」池田清彦 著
「食料危機という真っ赤な嘘」
池田清彦 著 ISBN978-4-8284-2573-3
「食料危機」が叫ばれる最大の理由はカロリーベースの「食料自給率」が38%(2022年度)と低いことである。
Ⅰ 日本政府の政策が食料自給率を低下させた
1.G7の食料自給率
(1)維持する必要性
戦争や自然災害という危機に備えて、自国民が飢えないようにするためにそこそこ維持する必要性がある。
(2)具体的な数値(2020年度)
米国115%、カナダ221%、フランス117%、ドイツ84%、イタリア58%、イギリス54%
2.愚かな政策の元凶
(1)1970年から2018年までの48年間の減反政策
食料自給率は、1970年(60%)、1985年(53%)、1990年(48%)、2020年にはついに40%まで落ち込んだ。
(2)減反政策の本当の目的
建前は「農業保護」と「食料自給率アップのため」としていたが、本当の目的は「農業票」を獲得するための選挙対策
(3)減反政策を廃止した理由
農協の集票力にかげりが見えてきたため2018年に減反政策を廃止
(4)本来やるべき政策
国をあげて米の生産を増やし、余剰分は補助金を支給して、海外に輸出や援助するのが、「食料安全保障」の観点からベストな選択。
3.日本特有のさらなる問題
(1)南海トラフ巨大地震
太平洋沿岸の流通は壊滅的な被害を受ける。名古屋、大阪、神戸などの港も機能停止になり、輸入商品もスムーズに入ってこなくなる。
(2)富士山の噴火
火山灰が降り積もり道路も鉄道も使えなくなる。火山灰は自然には溶けないので、これを除去するには時間と手間がかかり、流通はストップする(1ヶ月分の水と米を中心とした食料の備蓄)。
Ⅱ 「タンパク質の自給自足」の方が喫緊の課題
1.海外依存度の高いタンパク質
(1)肉類
牛肉、豚肉、鶏肉のいづれも海外に大きく依存し、さらにエサとなる飼料も殆んど海外頼み。
(2)魚介類
日本の漁獲量は1984年の1282万トンをピークにして、どんどん減り、2020年にはなんと421万トンと3分の1ぐらいに減っている。現在、日本で食べられている魚介類の半分は輸入
2.具体的な解決策
日本の「食料危機」の解決は輸入体制の強化(グローバルサプライチェーンの構築)ではなく、国内の自給自足体制を構築すること。
(1)養殖魚
養殖技術を用いて、国産の魚を増やす。今は海に養魚場をつくったり、川や池に養魚場をつくっているが、それに加えて陸上養殖(大型の水槽)をすること。
(2)培養肉
筋肉の細胞を培養して肉を作る。今は平らな形の培養肉しか作れないが、3Dプリンタによって立体的な培養肉の製造も可能になりつつある。
(3)昆虫食
餌や水などのコストも広大な場所も必要とせず、繁殖力が凄まじいので、本気で養殖すれば必要なタンパク質のみならずミネラルも簡単に摂取できる。
日本の食料自給率100%は夢じゃない!!
2024年8月1日 9:06 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「子どもを壊す食の闇」山田正彦 著
「子どもを壊す食の闇」
山田正彦 著 ISBN978-4-309-63161-5
Ⅰ 農薬大国
1.グリホサート(除草剤に含まれる主成分)…ラウンドアップなど
(1)発がん性があるとして世界49か国で禁止しているにもかかわらず、日本では使用や販売が続けられている。それどころか、グリホサートの残留基準を大幅にゆるめた(2017年:小麦、とうもろこし、そばなど)。
(2)市販されている小麦粉類、パン、及び学校給食のパンを調査した結果、グリホサートが検出された(農民連食品分析センター2018年~2020年)。
2.ネオニコ系農薬(殺虫剤)
(1)全世界でネオニコ系農薬の散布により、ミツバチの大量死で神経系に異常をきたすことが明らかになった。
(2)そこで、EU・韓国(2018年末)、イギリス(2017年末)、米国(2022年)も使用禁止。一方、残留基準値がゆるい日本はいまだに空中散布を続けている。
Ⅱ 食品添加物大国
1.ポストハーベスト
(1)日本では収穫後の農産物に農薬を撒くポストハーベスト農薬は認められていないが輸入する農産物は認めている。
(2)海外からの圧力に負けて日本で許可されている食品添加物の種類はこの20年間で急増し470品目あまりになっています。
2.食品添加物の表示制度の見直し
(1)消費者庁は2022年4月からガイドラインを変更し、「無添加」「◯◯不使用」等の表示は禁止し取り締まることにしました。
(2)ところが、2022年6月22日付けで「無添加の表示はなくなりません」と書いたチラシをウェブサイトにアップしました(消費者の選択する権利・知る権利に敗北)。
Ⅲ ゲノム編集食品
1.ギャバトマト
(1)日本では2021年9月より、ゲノム編集されたギャバという名のトマトがウェブサイトで販売されています。
(2)2018年EUの司法裁判所は、遺伝子組み換え作物と同様に規制すべきという判断を下し、EUではゲノム編集作物は販売されていません。
2.抗生物質が効かなくなる危険性
(1)ゲノム編集した細胞から作られた作物を食べると、抗生物質耐性遺伝子が腸内細菌に移行(遺伝子の水平伝達)し、抗生物質が効かなくなる危険性が生じる。
(2)ゲノム編集するためには、次の3つの物質を細胞核に入れる必要がある。
・標的となる遺伝子を切断するハサミの役割を果たす酵素(Cas9)
・Cas9を標的遺伝子に導くガイドRNAを作る遺伝子
・標的となる遺伝子の切断がうまくいったかどうかを示すマーカー(抗生物質耐性遺伝子)
以上の状況に変化を起こすキーとなるのは、学校給食の無償化・有機化です。現在、すでに約3割の市区町村で無償化は実現しています。
「子どもたちの健康は、社会の未来そのもの。学校給食を起点に日本の食を変える」
2024年7月18日 9:06 カテゴリー:書籍紹介