書籍紹介「本物の医学への招待」北原大翔 著
書籍紹介「本物の医学への招待」
北原大翔 著 ISBN978-4-04-606862-0
本書は、手術や病院という特殊で閉鎖された世界に不運にも関わることになってしまい、知らないことへの恐怖から不安な気持ちでいっぱいる人に対して、医療とは緊張ばかりではないんですよ、ということを伝えています。具体的な項目として…
1.一番やばい心臓の病気は何か
心室中隔穿孔です。心臓自体に栄養を送る「冠動脈」が詰まると、人臓の筋肉に血液が流れなくなり、その部分がダメージを受けてもろくなり、最終的に左右を仕切る中隔という壁が破れて穴が空きます。もろくなった心臓の穴を塞ぐのは心臓外科医が行う数ある手術の中でも非常に難易度が高い手術です。
2.心臓手術中に起きたら怖いことは何か
手術中に止めた心臓が、動きを再開しないこと。どうしても心臓の動きが復活しないときは、心臓の代わりに血液を体全身に送るエクモという機械を体につなげる。数日で心臓の動きが元に戻ればエクモを外すが、戻らなかった場合は人工心臓や心臓移植などの対処法を検討します。
3.「これはすごい」という最先端医療は何か
体の中を見ることができる技術。例えばCTやMRIなどは筒型の機械で体全体をスキャンして、病気の位置や形を正確に把握することができるので、手術など体の中を操作する治療は特にやりやすくなった。最近では、このCTで撮ったデータをもとに、体の中の臓器を忠実に再現して3Dで映し出す技術も開発されています。
4.心臓の鼓動はなぜ左側のほうが強く感じるのか
左側の心臓が強いから。右の心臓は体から戻ってきた血液を肺に送り、左の心臓は肺から戻ってきた血液を肺以外の体全身に送っています。体は肺に比べてかなり大きいので、左の心臓は右の心臓よりも強い勢いで血液を送る必要があります。そこで、左の心臓は右に比べて筋肉質で、激しく動き、外からは左のドキドキのほうが強く感じます。
5.一番必要のない臓器とは何か
虫垂です。小腸と大腸がつながっているところからちょろっと出ている腸のおまけみたいな臓器です。虫垂炎は虫垂にばい菌が溜まることで起こる病で、ひどければ腸切といって腸の一部を切る手術が必要になることもあります。ただし、最近では虫垂は腸内細菌のバランスを調整して病気になりにくい状態を作り出しているのでは、などその必要性が注目されています。
6.AEDとは何か
心臓の異常な動きを自動的に感知して、治療まで行ってくれる機械です。
心臓の異常は、主にふたつあります。ひとつは、心臓が完全に停止してしまっている状態。もうひとつは、心臓がめちゃくちゃなリズムで動いている状態。このふたつの違いをその場で判断することは、人間には不可能です。
そこで、AEDは、胸に貼るだけで心臓の動きを解析し、もしめちゃくちゃなリズムで動いている場合は電気ショックを与えて治療を行ってくれる。
また、呼吸をしていない場合はAEDをつけた後も胸骨圧迫(心臓マッサージ)を続ける必要があります。
驚くほど面白い手術室の世界。いつか手術を受けるかもしれないすべての人に!!
2025年6月5日 9:07 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「認知症医療革命」伊東大介 著
「認知症医療革命」
伊東大介 著 ISBN978-4-594-0943-1
本書は、「レカネマブ」の登場によりアルツハイマー病治療がどう変わったのかについて、今、患者さん、ご家族、さらには医療関係者に知っておいていただきたい基本的な知識について記されています。
1.アルツハイマー病の具体的な症状
病状は大きく「中核症状」と「周辺症状」の二つに分けられます。
(1)中核症状
「記憶障害」「見当識障害」「処理能力の低下」「実行機能の低下」などがあります。
(2)周辺症状(先行する中核症状が派生する症状)
本人のもともとの性格、環境、人間関係などが複雑に絡み合って生じる症状。具体的には、うつ状態、不安、焦燥、徘徊、興奮、暴力、不潔行為などです。
2.アルハイマー症の原因
「老人斑」と「神経原線維変化」を原因とする脳の萎縮と考えられています。
(1)老人斑(根本原因)
アミロイドβ(タンパク質)が蓄積して最終的に老人斑ができますが、その前にいくつかの段階があります。
・アミロイドβの量が増えて、それが少しずつくっついて数個の分子からなるオリゴマーとなる段階。
・オリゴマーがさらに集まり繊維状のプロトフィブリルとなる段階(レカネマブではこれを標的とする)。
・プロトフィブリルが大きな塊となり沈着した老人斑の段階。
(2)神経原線維変化(直接原因)
タウ(タンパク質)を主成分とした線維化して固まった状態変化。
・アルツハイマー病の重症度と関係するのは老人班ではなく神経原線維変化(タウ)の量。
・まずアミロイドβが溜まり、神経細胞の調子が悪くなり、その後にタウが神経細胞の中に溜まる。
・従って、タウが溜まると自己増殖が進み、その後アミロイドβを取り除いても症状の進行は止められない。
・神経原線維変化は、老人斑がなくても加齢とともに少しずつ増え認知症の症状が出る場合がある。
3.レカネマブ(2023年12月20日より保険適用)
レカネマブの投与を受けるには、患者さんが適用条件を満たす必要があります。
(1)適応条件(3つ)
・認知機能検査のMMSE(30点満点の22点以上)とCDR(0.5または1)、つまり、軽度認知障害か軽度の認知症であること。中等以上の認知症は除外されます。次に頭部MRI検査で脳に1cmより大きい出血の跡がある場合、5か所以上のごく少量の出血の跡がある場合は除外されます。
・更にアミロイドβの蓄積の有無を確認するために、脳脊髄検査またはアミロイドPET検査を受け蓄積が陽性であること。
(2)効果と副作用
・レカネマブの治験では18か月の投与で日常生活の質を評価する指標「CDR」の低下が27%抑制されました。これはアルツハイマー病の進行を約5か月遅らせることに相当。
・しかし、18か月以上の時間が経過すると、軽度認知障害→初期の認知症→中等度の認知症→高度の認知症、それぞれの段階で2~3年遅らせるといわれています。
・レカネマブは血管に付着しているアミロイドβを抗体作用により、引き剥がし、血管が傷むことにより、重篤な脳浮腫と脳出血が生じることがあります。
・これらの副作用は、血液を固まらせにくくする薬、もしくは血の塊を溶かす薬を投与されている方に発生します。
・アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子APOE4を父母の両方から受け継いだ人は3~6倍副作用が起きやすいこともわかっています。
4.アルツハイマー病の予防
(1)レカネマブによる予防
・研究者の多くは、レカネマブは、治療としてより予防薬としてのほうが大きな効果を発揮するのではないかと考えています。
・そこで2020年からプレクリニカルアルツハイマー病の人(軽度認知障害の前段階)を対象としたレカネマブの治験が行われています(2024年6月現在では結果は不明)。
(2)日常生活における予防
・生活習慣病の予防・治療、適度な運動、楽しい知的活動、他人との交流、頭部外傷を避ける、難聴に対処する、うつ病に対処する。
・さらに、大気汚染に注意する、十分な睡眠、飲酒は控える、認知トレーニング、栄養バランスのよい食事、感染症に注意する。
新薬の「レカネマブ」で新たな治療の可能性!!
2025年5月15日 9:04 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「脳は眠りで大進化する」上田泰己 著
「脳は眠りで大進化する」
上田泰己 著 ISBN978-4-16-661454-7
ヒトの睡眠中は無意識下で何らかの生体活動が行われているようだが、詳細は見えない謎が多い活動であるという見解に留まっていました。しかし、著者らのグループによる細胞を透明化する技術、世代をまたがずに遺伝子を改変する技術、さらに寝息のパターンによる動物の睡眠を測定する技術などにより睡眠研究が急激な進歩を遂げている。
1.睡眠は覚醒量よりもアクティブ
(1)新しく刺激を受けた場所では、覚醒時に神経細胞同士がつながるシナプスが強くなり、それ以外のシナプスは切れる。一方、どんどん切れたシナプスは睡眠時に新たに作られたり、強くなっている。
(2)つまり、「睡眠は人間の成長、特に、脳の神経細胞の成長に必要不可欠な極めて大切な時間である」ということ。
2.体内時計が持っている三つの性質
(1)1日周期で振動する(約24時間で1回り)。
(2)光や温度といった外部環境でリセットされる。
(3)温度補償性がある(タンパク質に印をつけて性質を変えるリン酸化酵素の働き)
3.睡眠物質から覚醒物質へ(逆転の発想)
(1)睡眠物質の有無については結論はまだ完全に出ていない。ただ、それは体が緊急事態(病気など)に直面して体を休めるべき場合に分泌される。
(2)ふだんの睡眠には必ずしも必要ないようである。
(3)眠っている時には、神経細胞はしばらく発火して一休み、しばらく発火して一休み…のリズムを繰り返す。
(4)つまり、神経細胞が非常に活性化した活動状態でなければ眠れないとふう一面がある。
(5)具体的には、神経細胞の発火が続くと陽イオンのカルシウムが細胞内に入り、神経細胞を活性化し発火が続く。
(6)一方で、入ってきたカルシウムは細胞内の陽イオンのカリウムを細胞外に流出させるチャネル(穴)を活性化し、カリウムが流出する。
(7)すると、細胞はなだめられて、神経細胞の発火が小休止する。
(8)神経細胞が小休止すると、カルシウムの細胞内への流入は止まる。
(9)次に細胞内で多くなったカルシウムはカルシウムを排出するポンプが細胞外へ流出する。
(10)そこで、カルシウムによって踏まれていた神経細胞のブレーキかはずれ、また神経細胞が発火を始める(睡眠中はこれらのプロセスを繰り返す)。
ヒトは睡眠で、日々「新しい自分」に生まれ変わっている!!
2025年5月1日 9:01 カテゴリー:書籍紹介