書籍紹介「睡眠の起源」金谷啓之 著
「睡眠の起源」
金谷啓之 著 ISBN978-4-06-537796-3
「脳をもたないヒドラも眠る」、そして、「ヒドラの眠りのメカニズムはショウジョウバエや哺乳類など他の動物と共通している」という著者による発見は、この世の"新しい真実"となり大きな反響を呼んだ。
1.ヒドラの睡眠についての研究論文の主旨(2020年10月科学誌に掲載)
ヒドラの行動を、「行動の静止と可逆性・反応性の低下、眠りのホメオスタシス」といった睡眠の一般的な指標に照らし合わせて解析し、睡眠状態かあることを発見。遺伝子レベルで睡眠のメカニズムに迫ろうと、断眠させたヒドラの遺伝子発現を解析して212個の遺伝子を特定し、それらの相同遺伝子をショウジョウバエでノックダウンすると、ショウショウバエの睡眠の長さが変化することを実証した。さらに、哺乳類をはじめとして、他の動物で睡眠を調節する作用がある物質を培養液に添加するとヒドラの睡眠も影響を受けることが分かった。また、長い時間(1日半)にわたってヒドラを断眠させると、細胞の増殖率が低下した。ヒドラが眠る理由の1つは体の維持や成長のためではないかー。
2.眠りの起源は何か
(1)新生児の睡眠
生まれたばかりの新生児は睡眠時間はとても長く16時間以上にも及び、眠りのうちに占めるレム睡眠は50%近くにも及ぶ(大人は20%)。そして、成長するにつれてレム睡眠の占める割合は減り、総睡眠時間もしだいに減っていき、8時間程度に収束する。生まれたばかりの赤ん坊が、レム睡眠を多くとる意味は未だ解明されていません。
(2)覚醒とは何か、意識とは何か
私たちは、いつから眠るようになったのか、それとも、もともと眠っていて、「覚醒」を獲得したのか。そこにもう1つの「眠りの起源」があり、それは「覚醒とは何か、意識とは何か」という新しい謎に行き着く。
3.眠りと意識
(1)意識とは
生物なの立場から、意識を分かりやすく表現すると「私たちヒトが起きているときに存在し、全身麻酔や、睡眠の際に失われるもの」となります。ただし、意識は必ずしも、全身麻酔や睡眠以外の状態、すなわち「覚醒」の状態に付属するわけでなく、例えば、レム睡眠中には意識がある。明晰夢は、その1例です。
(2)意識の発生
・いつ意識が生まれたのかという問題は、いつから動物が眠るようになったのかという問題と表裏一体です。進化の過程のどこかで、動物が運動性を獲得し、もしかするとそこで意識の原型が生まれたかもしれない。そして鶏が先か卵が先か、睡眠・覚醒という二つの状態が生じ、レム睡眠が発生して意識が発達した。
・もう1つの意識の発生は「全身麻酔かの回復」。動物がもっている「意識」は麻酔によって強く抑制される。そのようにして抑制された意識は、麻酔の濃度が下がると、しだいに回復する。
(3)睡眠とは
睡眠とは何か―それは起きている間に蓄積したものを解消する行為なのだろう。起きている間に蓄積していくもの、その実体はまだ完全に解明されていない。だが、起きている間に積み重なっていく借金は、どこかで返済しなければならない。蓄積すれば、脳や体の活動が損なわれる。
なぜ眠り、なぜ起きるのか?
新発見!胚をもたない生物ヒドラも眠る!
2025年11月6日 9:01 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「つくられる子どもの性差」森口佑介 著
「つくられる子どもの性差」
森口佑介 著 ISBN978-4-334-10474-0
親同士の会話で「女の子だとおしゃべりができていいな~。男の子はもう怪獣だから!」はよく聞くフレーズです。大人は無意識に子どもの性格の要因を性別に求めるが、それは正しい態度なのか。実際には活発な女の子も、おとなしい男の子もいます。本書は心理学・脳神経科学の膨大な先行研究をベースに、よく指摘される下記の性差についてデータで分析。「女脳」「男脳」は科学的根拠に乏しいこと、大人の思い込みこそが後天的に子どもの性差をつくったり増幅していることを明らかにしています。
1.指摘される6つの性差
(1)色の好みやおもちゃの好み
両者には性差があり、年齢とともに大きくなる。
(2)空間認知の性差
生後3か月時点でも心的回転能力の性差が認められますが、それは非常にわずかな差です。
(3)言葉の性差
語彙数や発話数などの性差は年齢とともになくなる一方で音韻の流暢性のような課題の成績では、大人になるまで性差は残り続けます。
(4)攻撃性の性差
幼児期ぐらいから攻撃性の性差が見られます。また、攻撃性の形態については、身体的攻撃や言語的攻撃に関しては男児のほうが高いが、関係性攻撃(無視や仲間外れ)に関してはほとんど性差がありません。
(5)学力の性差
国語においては女子のほうが成績が良く、数学においては男子がわずかに優れているものの、大きな性差はありません。
(6)感情の性差
感情の性差自体は調べることが難しいので、感情の表出しか調べられません。感情表出には性差があるとは言えません。
2.子どの未来のために
(1)子どもの性差はほとんどない
ほとんどの行動や能力に性差はありません。あるとしても、性差以外に重要な要因がある場合もありますし、それよりも個人差のほうが大きい。家庭環境や親子関係、もしくは生まれ持った特性などによる個人差の影響のほうがよほど重要です。
(2)大人にできる2つのこと
大人が変えるべき行動は、大きく2段階です。1つは、小さる性差を生み出している、子どたちへのかかわり方。もう1つは、その小さな性差を増幅するジェンダーステレオタイプです。従って、親の考える女性や男性についての思い込みを押し付けるのではなく、子ども自身の興味や才能をしっかりと観察し、それらを大切にする。子どもを一人の独立した人格を持つ人間として尊重すること。
「女脳」「男脳」は存在しない!!
女の子と男の子の「こころ」はほぼ一緒!!
2025年10月16日 9:07 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「心は存在しない」毛対拡 著
「心は存在しない」
毛対拡 著 ISBN978-4-8156-2584-9
「感情に振り回されてしんどい」「不合理な判断ばかりしてしまう」など、そんな悩みと対峙するとき、私たちは「心」があることを前提に、その定義や在りかについて考えています。しかし実は、生物学的に見れば、心は脳が作り出した副産物で解釈にすぎません。
(1)心はどうやって生まれるか
脳科学における古典的な問題として「身体喚起は、情動体験の前か後か」平たく言うと、「泣くから悲しいのか、悲しいから泣くのか」があります。悲しくて泣くこともあれば、泣かないこともあるように、一人ひとりが異なる経験と記憶を持っているため、心=感情は一定不変の本質を持っているわけではなく、都度ダイナミックに形成されます。
(2)心は性格か
「心のはたらき」は、視覚や聴覚などの感覚情報処理となんら変わりなく、心の状態を専門に処理する特定の脳回路は存在しません。心は結果的に生じるもので、特別な存在ではないので、「心中心主義的」な考え方は誤りです。
(3)心は感情なのか
心は、日々のさまざまな経験によって形成され、成長し、時には傷つき、ボコボコになりながら変化します。それは喜怒哀楽といった単純なラベル付けやカテゴリーに収めることができないほど多層的で繊細です。
(4)脳はなぜ心を作り出したのか
時として、私たちは、心が激しく揺り動かされるという感覚を味わいますが、私たちが感じている「心」は、心を感じるための原因でなく、ストレス応答の結果です。「脳はなぜ心を作り出す必要があったか」という問いにあえて答えるとすれば、「ストレスに迅速に対応するため」と言えます。
(5)心は現実の窓
「心」は単一の実体ではなく、複雑でさまざまな要素が組み合わさり、その時々の状況や環境に応じて変化します。さらに、ホメオスタシスつまり私たちの内部環境を一定に保つプロセスの一環として生じ、「変化しないために変わり続ける」(恒常的無常)過程の中で「心」が形成されます。したがって、「心」とは個々人にとって現実をどう切り取るか、どう解釈するかに深く関わっています。
みんなが思っているような「心」は存在しない すべては錯覚!
もう「心」に振り回されなくていい!!
2025年10月2日 9:04 カテゴリー:書籍紹介
