書籍紹介「「心の不調」の脳科学」加藤忠史 著
「「心の不調」の脳科学」
加藤忠史 著 ISBN978-4-06-542020-1
精神疾患と診断されなくても、「心の不調」を抱える人はストレスの多い現代社会で増加しています。うつ病、発達障害、摂食症、心身症、睡眠障害、虐待、スマホやギャンブル依存、強迫症、愛着障害、PTSD、老年期うつ病、認知症、双極症、統合失調症…全ての症状は「脳の変化」が生じますが、脳内でいったい何が起きているのでしょうか。ここでは、今まで見えなかった脳内の変化をPET(陽電子放出断層撮影)で可視化する研究に限定して考察します。
1.精神疾患をPETで早期診断
PETでは陽電子を放出する放射性物質を分子につけるPET薬剤を投与します。PET薬剤は標的 となるタンパク質に選択的に結合し、陽電子を放出し、「バイオマーカー」になります。
2.うつ病や新型コロナ後遺症では脳内炎症が起きている
(1)脳内炎症ではグリア細胞のミクログリアとアストロサイトが関与しています。
(2)ミクログリアは脳内の免疫機能を司る細胞で、脳内で損傷があると「活性化ミクログリア」となって、細胞の残骸を食べたり炎症性サイトカインを放出し、損傷面所を修復します。
(3)さらに、不要なシナプスを貪食し、脳内の神経回路の維持にも関わっています。
(4)一方、アストロサイトは、神経細胞の信号伝達などを調節する機能があります。
(5)さらに脳の血管を取り囲んで「血液脳関門」を形成します。
(6)ところが、脳内炎症が起きると「反応性アストロサイト」となり信号伝達に不具合が起きたり、血液脳関門が緩んで異物が脳内に侵入します。
(7)PETで可視化すると、うつ病の患者さんの脳の前頭葉で、活性化ミクログリアも反応性アストロサイトも増加しています。
(8)さらにうつ病の罹患期間が長いほど、両者とも増加する傾向があります。
(9)新型コロナ後遺症でも、脳幹や線条体、前頭葉の一部や海馬において、反応性アストロサイトが増えていることがわかりました。
3.脳内炎症によって、タウタンパク質が蓄積する
(1)タウタンパク質の蓄積により、神経細胞の機能が低下したり細胞死が起きる。
(2)タウは主に神経細胞の微小管に集まるタンパク質の一種です。微小管は、たくさんのタンパク質が集まってチューブを形成しています。
(3)微小管はタンパクがバラバラになって壊れる過程と、集まってチューブを作る過程の新陳代謝を繰り返しています。
4.タウの蓄積を可視化する技術と蓄積を減らす薬剤の開発
(1)PET薬剤の改良・開発により、多種類のタウ凝集体がどの脳領域に蓄積しているかを高精度に可視化できるようになりました。
(2)例えば、タウが蓄積する脳部位を調べることで、アルツハイマー型か前頭側頭型かを識別できるようになりました。
(3)現在、製薬企業でタウを除去する薬の開発が進められており、すでに臨床試験の段階です。
5.慢性外傷性脳症(頭部への大打撃の大問題)
米国を中心にタウの蓄積が認められる慢性外傷性脳症は大問題になっていますが、日本ではほとんど話題になっていません。
(1)頭部への繰り返しの打撃から、数ヵ月後ないし数十年が経過してから、うつや不安などの精神症状や認知機能の低下が現われる神経変性疾患です。なお、打撃だけでなく、頭部の振動も発症原因となります。
(2)頭部への打撃や振動で、脳内の神経細胞に物理的な力が働き、微小管を構成するタウを含むタンパク質がバラバラになり、さらに脳損傷に伴う炎症でタウの過剰なリン酸化と蓄積が進むと考えられます。
(3)具体的な対象者は、ボクシング、アイスホッケー、プロレス、ラグビー、サッカーなど選手間で接触のあるさまざまなコンタクトスポーツを行う人、さらに野球経験者や虐待を受けた人、交通事故の被害者、競馬騎手などです。
脳の中で何が起きているのか?
発症前の予兆から治療法の開発まで!!
2026年7月16日 9:07 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「裁判官が見た人間の本性」瀬木比呂志 著
「裁判官が見た人間の本性」
瀬木比呂志 著 ISBN978-4-480-07124-0
裁判官は、法廷で、人間の「死の姿、裸にされた姿」と対峙する。訴訟という泥まみれの戦場においては、人間性の深淵を覗かざるをえない場合があり、特に、その隠された側面、表立っては語られにくい側面にふれることが多い。法壇から、また時にはいわば神の視点から、粉争や当事者を、さらには自分自身を見据える仕事を33年間務めた著者が、古今東西の書物・作品を渉猟しつつ人間の本性とそれを取り巻く世界の種々相を、縦横無尽に、かつ生々しく活写する。なお本書の構成・内容は以下のとおりです。
第1章 人間とその「生」の種々相
ここでは、結婚、愛と性、親子、師、友人と交友、内なる悪、イノセンス(無垢)、うつと狂気、予言と運命、死といった、人間とその「生」に関する重要かつ基本的な諸テーマを論じています。
第2章 社会の中の人間
ここでは、プライヴァシー、コミュニケーション、「原告」のつらい立場、メディアと人間、人間の尊厳、「自分が一番」という考え方の意味、幸福と自己実現欲求といった、人間が社会と深くかかわるいくつかの側面について論じています。
第3章 大きな世界と人間
ここでは、第1章、第2章を踏まえつつ、「私」とは何か、そして著者の人間観の背景を成す世界観や宇宙観について述べています。
以上は、本書の内容を成すひとつながりの「論」なので、最後に、それら全体についての簡潔な「あとがき」が加えられています。
なお、「裁判官が見た人間の本性」という書名から、訴訟における人間のあり方が多々描かれることを期待する人もいるかもしれません。しかし、訴訟における人間の姿は、本書の素材の一つであるものの、突出して大き素材というわけではありません。
「元裁判官」で「法学者」、「著述家」である著者の人間観と人間の本性!!
2026年7月2日 9:01 カテゴリー:書籍紹介
書籍紹介「老いと死の流儀」池田清彦 著
「老いと死の流儀」
池田清彦 著 ISBN978-4-594-10153-4
本書は、「老い」の正体を生物学的、そして社会的観点から解き明かしつつ、「老い」とうまく付き合っていく方法、いわば老いのマネジメント法について著者の考えを述べています。
1.「老いる」とはどうことか?
年を取ることで主に下記の要因によって老化が進みます。
(1)DNAにミスコピーや損傷が起こりやすくなる。
(2)損傷を受けたDNAの修復能力が低下する。
(3)遺伝のスイッチのオン・オフを調節する「エピゲノム」が乱れる。
(4)細胞分裂によるテロメアの長さがだんだん短くなる(ヘイフリック限界)。
従って、医療の進歩があっても、どれほど老化を遅らせることができても、100歳を超えるあたりがかなり恵まれた「最終到達地点」になります。
2.長生きに「効くかもしれない」こと
カロリー制限によって
(1)体の負担を減らし、生活習慣病をできるだけ回避する。
(2)「オートファジー」を活性化して、細胞内で古くなったり、壊れた部品を分解して、再利用する。
(3)週に1~2回の16時間断食によって「オートファジー」を活性化させる。
(4)長寿遺伝子とも呼ばれる「サーチュイン遺伝子」を活性化させる。
さらに、カロリー制限以外では、適度なストレスによる「ホルミス効果」や「規則正しい生活」をできるだけ維持することも大事です。
3.今を楽しむこと
(1)「今」を楽しむ特権を得ること
未来を心配するメリットがあるのは若い人だけで、嫌なことでもやらざるを得なかったり、我慢したり、努力したりするのは、その先に長い未来があるからでしょう。従って、「今」を楽しく過ごすことができるのは、年を重ねたらこそ得られる特権です。
(2)テクノロジーの恩恵を受ける
杖や車椅子、インプラント、メガネや補聴器、VRゴーグルなどを使用して、「まだまだ楽しめる日々」を延ばす。
4.「人生の意味」から解放する
(1)すべてに「意味」があるとは限らない
人間は、あらゆることに意味を見いだそうとする生き物です。意味の典型は「なんのためにあるか」ですが、その答えが出ないことが多くあります。
生物の形質一つ取っても、すべてに意味があるわけではなく、不適応だと思える形質を持つ生物はたくさんいます。もともと、人間を含め、すべての生物は目的のためにつくられたわけでありません。だから意味などもともとないんです。
(2)「人生の意味」が自分を縛り、生きづらくする
多くの人の頭の中では、「人生の意味」は「生きる目的」とセットになっているので、それを見つけられないと生きづらくなります。人生の意味を考える最大の弊害は、一つの価値観に縛られることになります。しかし、時代や状況に応じて「正解」や考え方が変化するのが通常でしょう。
「今を楽しく生きる」ことこそが本当の終活!!
2026年6月18日 9:08 カテゴリー:書籍紹介
