書籍紹介「「科学的に正しい」の罠」千葉聡 著
「「科学的に正しい」の罠」
千葉聡 著 ISBN978-4-8156-3337-0
科学の結論は常に暫定的だ。明日になればもっと良いデータで更新されるかもしれない。だから科学で不幸にならないために一番重要なのは、内省できる心の状態の維持である。とりあえず今はその意見を採用するが、信じたり崇拝はしない。とりあえず今はその意見は却下するが、破棄はしない、という人の余裕である。
1.科学的正しさの脅威
お気に入りの真実を自分の力で社会的につくり出せると信じる権力者とメディアの協力のもとに、事実とはつくり出された物語であると見なす疑似科学者の出現。疑似科学を説く人々は、社会変革への情勢を燃料に、イデオロギー的中傷や大衆扇動で科学者を次々に陥れる。この手法はSNSや動画配信全盛の現代では非常に危険である。
2.最も危険な「価値中立」という思い込み
一般の人々は、研究者が今「客観的な事実を提供する人物」として話しているのか、それとも「特定の価値観の下で意見する人物」として話しているかを意識する必要がある。従って、「科学的に正しい」判断を専門家だけの閉じた議論で決めるのではなく、様々に異なる価値観を持つ利害関係者すべてが意思決定に至るまでの場に参加できなくてはならない。
3.学術研究での留意点
学術研究は自由が原則だが、自由を守るためには他者の人権や尊厳も守らなければならない。事実に絡む差別的な価値観や無頓着な主張は差別を正当化し、ヘイトスピーチなどを助長する。従って「研究成果」が特定の集団(人々)に及ぼす可能性のある有害な影響を事前に検討すること。その成果が誤用されたり、結果として集団に危害が及ぶリスクを最小限に抑えるよう努めるべきである。
4.自らの価値観を語る
自らの価値観を自覚し、隠さないこと。そのうえで他者の価値観と対立があれば、まずは両立を試みる。考えがバラバラでも、共通の解決策を見つけて動けばよい。一致団結は考えてはならない。従って、科学的事実の中立を守るなら、そしてもし事実に付着した価値があるのなら、事実とは別にあえてそれも語るべきである。
5.まとめ
不幸な世界の致来を回避するために、私たちに必要なのは「正しさ」がどう導かれるかを理解し、価値観によって、それがどう損なわれ、偽装され、悪用されるかを知っておくことである。
2026年5月21日 9:06 カテゴリー:書籍紹介
