書籍紹介「「腸と脳」の科学」 坪井貴司 著

「腸と脳」の科学
坪井貴司 著 ISBN978-4-06-537276-0

全身の臓器の中でも「腸と脳」が密接に情報をやり取りし、心身の状態を調整しているしくみは、「脳腸相関」と呼ばれています。近年、このしくみが、分子および細胞レベルで少しずつ明らかになり、脳腸相関の要となる腸内環境の乱れは、腸疾患だけでなく、糖尿病や肥満、そしてアルツハイマー型認知症などさまざまな病気の原因となり、こうした病気を悪化させることもわかってきています。

1.脳腸相関とは
(1)脳で処理されたストレスや情動などの情報は、遠心性迷走神経やホルモンを介して腸に伝達され、腸管神経系の機能を調整する。
(2)一方、腸管が感じた腸管内の環境情報は、腸内分泌細胞が分泌する消化管ホルモンや求心性迷走神経を介して脳に伝達される。
(3)腸に入った食べ物は、蠕動運動、分節運動、振子運動などの複雑な動きによって消化される。
(4)これらの複雑な運動は、腸管神経系と呼ばれる独自のネットワークによって、脳を介せずに自律的に調整される。
(5)さらに、腸内マイクロバイオータとそれらが産生する腸内代謝物が脳腸相関を調節する。

2.「脳を支配する腸」の最新研究
(1)腸内マイクロバイオータの組成の変化と睡眠の質には相関関係があり、その組成を人為的に変化されると、睡眠時間だけでなく睡眠の質も制御できる可能性がある。
(2)ヒトでの小規模な臨床試験で、乳酸を産生するビフィズス菌を摂取することで、脳萎縮の進行が抑制できる可能性が報告されている。
(3)同じく、小規模な臨床試験で、小麦胚芽や納豆、大豆、熟成チーズなどに含まれるポリアミン(とくにスペルミジン)の摂取により、加齢による認知機能の低下を抑制できる可能性が報告されている。
(4)食物繊維が少ない食事では、腸管の粘液層の厚みが薄くなり、腸管の物質が直接求心性迷走神経や血中に取り込まれ、異常型α‐シヌクレインの形成を誘発し、パーキンソン病を引き起こす可能性がある。
(5)自閉スペクトラム症やうつ病により、腸内マイクロバイオータとそれらの腸内代謝物の組成が大きく変化する。
(6)食事由来の短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)が、受容体に作用して、脂肪組織へのエネルギーの蓄積を抑え、食欲を抑える作用があることがマウスで明らかになった。
(7)バランスの取れた食事は腸内マイクロバイオータのディスバイオシス(破綻)を防ぎトランス脂肪酸を産生する細菌の増殖を防ぐ。
(8)マウスにおいて、人工甘味料の摂取により、腸内マイクロバイオータの組成とそれらの腸内代謝物が大きく変化し、血中のグルコース濃度を正常に保つ能力(耐糖能)に異常を引き起こす。

3.腸のブラックボックスを解き明かす
(1)腸内内泌細胞のニューロポッド細胞は、一つの細胞からホルモンと神経伝達物質を分泌し、腸管腔内でスクロースやグルコースを摂取した情報を脳に伝達する。
(2)腸内マイクロバイオータが産生する酢酸が、受容体に作用し、肺の免疫機能を強化する(腸肺相関)。
(3)動物性脂肪を消化・吸収するために肝臓から分泌される胆汁は腸内マイクロバイオータによって発がん物質が含まれている二次胆汁酸に変化するため、多量になると肝臓がん引き起こす可能性を高める(腸肝相関)。
(4)腸内マイクロバイオータのディスバイオシス(破綻)によって尿毒素が産生され、その結果、腎機能が低下する(腸腎相関)。
(5)腸内マイクロバイオータはストレスや食事、運動といった生活習慣によって組成が変化するが、もっとも大きい影響を及ぼすのはさまざまな病気の治療薬。薬の種類や量が多い程、影響はより大きくなる。

最新研究で見えてきた「脳腸相関」の驚くべきメカニズム!
すべての不調は腸から始まる!!

2025年7月17日 9:04  カテゴリー:書籍紹介

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