書籍紹介「認知症医療革命」伊東大介 著
「認知症医療革命」
伊東大介 著 ISBN978-4-594-0943-1
本書は、「レカネマブ」の登場によりアルツハイマー病治療がどう変わったのかについて、今、患者さん、ご家族、さらには医療関係者に知っておいていただきたい基本的な知識について記されています。
1.アルツハイマー病の具体的な症状
病状は大きく「中核症状」と「周辺症状」の二つに分けられます。
(1)中核症状
「記憶障害」「見当識障害」「処理能力の低下」「実行機能の低下」などがあります。
(2)周辺症状(先行する中核症状が派生する症状)
本人のもともとの性格、環境、人間関係などが複雑に絡み合って生じる症状。具体的には、うつ状態、不安、焦燥、徘徊、興奮、暴力、不潔行為などです。
2.アルハイマー症の原因
「老人斑」と「神経原線維変化」を原因とする脳の萎縮と考えられています。
(1)老人斑(根本原因)
アミロイドβ(タンパク質)が蓄積して最終的に老人斑ができますが、その前にいくつかの段階があります。
・アミロイドβの量が増えて、それが少しずつくっついて数個の分子からなるオリゴマーとなる段階。
・オリゴマーがさらに集まり繊維状のプロトフィブリルとなる段階(レカネマブではこれを標的とする)。
・プロトフィブリルが大きな塊となり沈着した老人斑の段階。
(2)神経原線維変化(直接原因)
タウ(タンパク質)を主成分とした線維化して固まった状態変化。
・アルツハイマー病の重症度と関係するのは老人班ではなく神経原線維変化(タウ)の量。
・まずアミロイドβが溜まり、神経細胞の調子が悪くなり、その後にタウが神経細胞の中に溜まる。
・従って、タウが溜まると自己増殖が進み、その後アミロイドβを取り除いても症状の進行は止められない。
・神経原線維変化は、老人斑がなくても加齢とともに少しずつ増え認知症の症状が出る場合がある。
3.レカネマブ(2023年12月20日より保険適用)
レカネマブの投与を受けるには、患者さんが適用条件を満たす必要があります。
(1)適応条件(3つ)
・認知機能検査のMMSE(30点満点の22点以上)とCDR(0.5または1)、つまり、軽度認知障害か軽度の認知症であること。中等以上の認知症は除外されます。次に頭部MRI検査で脳に1cmより大きい出血の跡がある場合、5か所以上のごく少量の出血の跡がある場合は除外されます。
・更にアミロイドβの蓄積の有無を確認するために、脳脊髄検査またはアミロイドPET検査を受け蓄積が陽性であること。
(2)効果と副作用
・レカネマブの治験では18か月の投与で日常生活の質を評価する指標「CDR」の低下が27%抑制されました。これはアルツハイマー病の進行を約5か月遅らせることに相当。
・しかし、18か月以上の時間が経過すると、軽度認知障害→初期の認知症→中等度の認知症→高度の認知症、それぞれの段階で2~3年遅らせるといわれています。
・レカネマブは血管に付着しているアミロイドβを抗体作用により、引き剥がし、血管が傷むことにより、重篤な脳浮腫と脳出血が生じることがあります。
・これらの副作用は、血液を固まらせにくくする薬、もしくは血の塊を溶かす薬を投与されている方に発生します。
・アルツハイマー病のリスクを高める遺伝子APOE4を父母の両方から受け継いだ人は3~6倍副作用が起きやすいこともわかっています。
4.アルツハイマー病の予防
(1)レカネマブによる予防
・研究者の多くは、レカネマブは、治療としてより予防薬としてのほうが大きな効果を発揮するのではないかと考えています。
・そこで2020年からプレクリニカルアルツハイマー病の人(軽度認知障害の前段階)を対象としたレカネマブの治験が行われています(2024年6月現在では結果は不明)。
(2)日常生活における予防
・生活習慣病の予防・治療、適度な運動、楽しい知的活動、他人との交流、頭部外傷を避ける、難聴に対処する、うつ病に対処する。
・さらに、大気汚染に注意する、十分な睡眠、飲酒は控える、認知トレーニング、栄養バランスのよい食事、感染症に注意する。
新薬の「レカネマブ」で新たな治療の可能性!!
2025年5月15日 9:04 カテゴリー:書籍紹介